現在の治療戦略
がんとの闘い方
大腸がん治療に適用できる治療はどんどん増えています。従来の治療法には、手術、放射線療法、化学療法などがあります。転移性のがんの治療選択肢として、2004年から標的治療が加わりました。
手術
ステージ IからIII のCRCには、通常局所的な腫瘍部位を手術をします。外科医は、腫瘍と共に腫瘍が浸潤している結腸や周囲の脂肪とリンパ節も除去することがあります。101大抵手術の終盤に正常な結腸や直腸の部位を接合します。102 もし接合できなかったら、外科医は腹部の開口部から人工肛門104を挿入して経路を造り、人工肛門造設術103を行います。人工肛門は、腸が全治するまでの一時的処置であることもあります。105治癒期間中に下痢や便秘が一時的に起こることがありますが、これは術後の一般的な症状で、治療を勧めるうちに緩和されていきます。 術後に適切な食生活を実践することが治癒と早期回復に大切です。106
術後の一般的な副作用を下記に挙げます:107
- 治療で抑制可能な痛み
- 固形食物の摂取困難
- 脚に出血、または血栓が発生

放射線療法
放射線療法は、高エネルギー光線でがん細胞を死滅させる治療です。単独でも、他の療法との併用でも使用されます。また、腫瘍を縮小する目的で術前に行うことも、残ったがん細胞を死滅するために化学療法の後に実施することもあります。108 がんが除去できなくても、放射線は腫瘍の大きさを縮小させて患者を快適な状態にできます。
健康的な細胞に回復不能な損傷を与えずに照射できる放射線の量は限られています。医師は今まで受けた放射線量を考慮して治療の選択肢を提案してくれるでしょう。109
放射線療法の一般的な副作用:110
- 下痢
- 腸制御の減退
- 吐き気
- 皮膚痛
- 膀胱や直腸の炎症
- 疲労
- 性機能障害
化学療法
化学療法 (英語の略式で‘chemo’と表記することもあります)は、薬物投与でがん細胞を死滅させる治療です。 111 手術や放射線療法とは違い、112 これは全身療法で治療薬が全身を循環します。通常は、静脈に化学療法の薬を液体注射するか、錠剤を服用します。薬は血中を循環し、全身のがん細胞と闘います。113
患者の大半が化学療法を受けており、新しい治療に積極的なので、この治療法は成功を収めていると言えるでしょう。114 化学療法の使用薬には様々な種類があり、がんにもっと積極的に闘えるよう、複数の薬が処方されることもあります。複数の薬を服用する治療は併用療法とも呼ばれ、化学療法の薬にがんが耐性を持つ確率を軽減できます。115 併用療法には、化学療法薬でない標的治療も含まれることがあります。標的治療も全身療法で、抗EGFR治療と血管新生阻害治療がそれにあたります。標的治療については、本セクションでまた後ほどご説明します。
表2 は、化学療法と標的療法などで大腸がんに使用する全身薬の概要です。16
表 2. 全米総合がんセンターネットワーク (NCCN) が推奨する全身治療
一般的な化学療法の併用例117
FOLFOXは、オキサリプラチン、ロイコボリン、 5-FUの併用療法です。投与手段はIVの持続点滴で、2週間ごとに実施します。
mFOLFOX は、オキサリプラチン、ロイコボリン、 5-FUの投与量を変更した併用療法です。投与手段はIVの持続点滴で、2週間ごとに実施します。
mFOLFOX + べバシズマブは、オキサリプラチン、ロイコボリン、5-FU、べバシズマブの併用療法です。投与手段はIVの持続点滴で、2週間ごとに実施します。
CapeOXは、オキサリプラチンとカぺシタビンの併用療法です。3週間おきに、14日間経口投与します。
CapeOX+ べバシズマブは、オキサリプラチンとカぺシタビンの併用療法です。1日のべバシズマブのIV点滴と併用して、3週間おきに14日間経口投与 します。
FOLFIRIは、イリノテカン、ロイコボリン、5-FUの併用療法です。 IV点滴で、2週間ごとに投与します。
FOLFIRI + べバシズマブは、イリノテカン、ロイコボリン、5-FU、べバシズマブの併用療法です。IV点滴で、2週間ごとに投与します。
FOLFIRI + Ziv-afliberceptは、イリノテカン、ロイコボリン、5-FU、Ziv-afliberceptの併用療法です。IV点滴で、2週間ごとに投与します。
カぺシタビンは3週間おきに14日間経口投与 します。
カぺシタビン+ べバシズマブは、カぺシタビンを14日間経口投与し、1日べバシズマブIV点滴をする併用療法で、3週間ごとに行います。
レゴラフェニブは、28日間ごとに21日間経口投与します。
術前補助療法として、術前にあらかじめ腫瘍を縮小させるために化学療法を用いることもあります。さらに、術後でも、残ったがん細胞を死滅させるために適用することもあります。医師は手術の検討も含め、患者のがんの種類やステージに適した薬や併用薬物を一緒に選んでくれるでしょう。
化学療法の副作用
化学療法の薬はがん細胞だけでなく健康な細胞も死滅させるので、副作用が発生します。一般的な副作用は次の通りです:117
- 貧血
- 疲労感
- 脱毛
- 吐き気と嘔吐
- 口腔内、歯茎、咽の問題
- 神経と筋肉の問題
- 下痢
- 便秘

標的治療のご紹介
2004年の初めに、“標的治療”と呼ばれる新たな治療法が開発されました。この治療では、がんが生存して成長するのに必要な細胞経路を攻撃します。これで、がんの分子標的薬の理解が深まり、それを活用することで転移性大腸がんの治療技術が改善されてきました。
細胞経路を遮断することで、以下の効果が期待されます:
- がん細胞は成長できなくなり、アポトーシスと呼ばれる自然死をします
- がん細胞に栄養を与え、成長を助ける新生血管の形成が止まります。これを血管新生阻害と呼びます
- がんの周辺組織が正常な構造を維持できるようになります。これを腫瘍内微小環境と呼びます。
この新たな治療法は、mCRC患者に新しい選択肢と希望を与え、がん治療の革命を起こしています。
mCRC患者は、腫瘍で確認できた特定の標的など、様々な要因によって治療内容は変わってきます。そうすることで、標的がん療法は正常な細胞ではなくがん細胞を選択的になるようデザインされており、化学療法よりも副作用を減らすことができるようになるのです。119
標的がん療法は、mCRCに単独使用、他の療法との併用、あるいは異なった形での化学療法との併用でも使用できるように研究されています。

資料提供元
標的治療: 血管新生阻害治療
2004年、米国食品医薬品局(FDA)は癌の治療として血管新生阻害治療を大腸がん治療として承認しました。腫瘍の増殖をさせる異常な血管を標的にする治療で、がん治療に革命を起こしました。血管新生阻害治療は、最初は血管内皮増殖因子(VEGF)という特定のたんぱく質を標的にしていましたが、現在では複数の成長因子と経路を標的にできます。今では転移性大腸がんに、3種類の血管新生阻害治療が開発されています—抗体、融合タンパク質、チロシンキナーゼ阻害薬—この中から療法が選択できるようになったのです。
べバシズマブ
べバシズマブ (アバスチン®)はVEGF-Aと呼ばれるたんぱく質を結合して中和できる抗体薬です。mCRCの一次治療に効果的で、化学療法と併用します。化学療法と一緒に二次治療の一部として使用することも認可されています。患者は化学療法を受ける当日にべバシズマブを2週間ごとに点滴静注します。症状が抑制され、副作用を管理できるようだったら、化学療法が終わった後もべバシズマブ投与を続ける場合があります。
べバシズマブは、2004年にmCRCの一次治療として認可されました。認可は、無作為化したプラセボ対照試験を実施し、二重盲検試験AVF 2107の結果に基づいたものです。この試験には800人以上の患者が参加し、べバシズマブと化学療法を組み合わせた患者の方が、化学療法のみを受けた患者よりも全生存期間中央値が長いことがわかりました。
2006年、べバシズマブとFOLFOXを併用した治療法がmCRCの二次治療として認可されました。この認可は、患者829名が参加した臨床試験、E3200に基づいたものです。さらに、べバシズマブは2013年にも認可されました。この認可は患者820名が参加した臨床試験ML18147の結果にに基づいています。試験には、前治療に応じてフルオロピリミジン‐イリノテカンあるいはフルオロピリミジン‐オキサリプラチンをベースにした化学療法を使用しています。
Ziv-aflibercept
Ziv-aflibercept (Zaltrap®)は 融合タンパク質として知られる標的薬物です。この薬は、がんと血管形成に寄与する複数の成長要因、特にVEGF-A、VEGF-B、胎盤成長因子(PIGF)と呼ばれるたんぱく質を標的にするよう作られました。mCRC治療に、Ziv-afliberceptは化学療法(FOLFIRI)と併用すると二次治療に有効な事が認可されました(日本未承認)。 化学療法と一緒に、ziv-afliberceptを2週間ごとに静脈点滴投与します。腫瘍が進行せず、副作用が管理できるような状態が続く限り、この治療を続けます。
2012年のziv-afliberceptの認可は、無作為化かつ二重盲検化したプラセボ対照試験、VELOURの結果に基づいています。この臨床試験には、化学療法とべバシズマブを併用しても6ヶ月以内に改善が認められなかったmCRC患者1226名が参加しました。この研究で、化学療法のみ受けた患者と比べ、FOLFIRI療法とziv-afliberceptを併用した患者に生存期間中央値の著しい改善が認められました。
レゴラフェニブ
レゴラフェニブ (Stivarga®)はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の錠剤を用いた分子標的治療薬です。異常細胞への血液供給経路のシグナル伝達を遮断する働きがあり、がん細胞だけに的を絞る仕様になっています。レゴラフェニブは複数の成長因子のシグナルに標的を絞ります。標的となるシグナルには、VEGF受容体、線維芽細胞成長因子(FGF)受容体、血漿板由来増殖因子(PDGF)受容体、アンジオポチエン受容体TIE-2などがあります。 さらに、レゴラフェニブの標的にはRAF、BRAF、RET、KITなどがあります。レゴラフェニブはmCRC患者が複数の治療を受けても進行した、または再発が認められた時の三次治療として認められています。レゴラフェニブは1日1回28日間単位で服用します。その内21日間は治療日で、7日間は休薬期間です。
レゴラフェニブは、2012年に認可されました。認可は、無作為化したプラセボ対照の二重盲検試験、CORRECTの結果に基づいたものです。この試験には複数の前治療を受けた760人のmCRC患者が参加し、レゴラフェニブ治療を受けた患者の方が、プラセボ使用患者よりも全生存期間中央値が高いことがわかりました。
抗EGFR治療
上皮成長因子受容体(EGFR)はがん細胞上の分子で、腫瘍の成長に寄与します。悪性CRC腫瘍の原因として、実に80%が EGFRシグナル伝達の影響を受けています。 さらに、EGFは血管形成を引き起こすこともあります。 抗EGFR治療は、受容体へのシグナル伝達を遮断することで腫瘍の成長を阻害します。
mCRCの認可済み抗EGFR標的薬は、: セツキシマブ (Erbitux®)とパニツムマブ(Vectibix®)の2種類です。
セツキシマブは標的治療で、化学療法と併用でKRASの変異が陰性 (野生型)かつEGFRが認められるmCRC患者の一次治療に使用します。120 化学療法で効果を奏さなかった患者にも単独で使用することがあります
パニツムマブは、化学療法を受けてもがんが進行しており、EGFRが認められるmCRC患者に単独で使用します。121
KRASスクリーニング検査
KRAS (ケイ‐ラスと読みます)という遺伝子は、医師がmCRC患者の治療をカスタマイズするのに大切な役割をします。KRAS検査で、患者に適した治療がわかるのです。セツキシマブとパニツムマブは、変異したKRAS遺伝子を保有する腫瘍には効きません。 大腸がんのおよそ40%でKRAS遺伝子に変異が起きており、変異が起きていないKRAS遺伝子 (“野生型”と呼ぶ)は残りのたった60%です。KRASの変異状況を特定することで、KRASが変異した転移性大腸がんに無効な抗EGFR阻害薬に掛かる不必要な支出と毒性の影響を受けずに済むのです。
副作用
標的治療の多くは、化学療法よりも副作用が穏やかで耐用性も勝っています。しかし、依然として注意深く観察して管理する必要がある副作用があります。
血管新生阻害薬に一般的な副作用として以下が挙げられます:
- 血圧の上昇(高血圧)
- 尿中のタンパク質異常
- 出血及び凝固の問題、傷が治りにくい、消化管穿孔、また、ごく稀ですが、生命に関わる大量出血
EGFR標的治療の主な副作用を以下に挙げます: 123
- 疲労感
- 下痢
- 皮膚発疹
- 低血圧
- 呼吸困難